海外展示会出展に伴うリスク:中小企業が知るべき種類と対策
海外市場への販路開拓やブランド力向上を目指す上で、国際的な展示会への出展は有効な手段の一つです。しかしながら、異文化や慣習の違い、そして予期せぬトラブルが発生する可能性も高く、事前のリスク管理が不可欠となります。
特に中小企業の場合、海外での展示会出展は経験が少ないこともあり、どのようなリスクが潜んでいるのか、またどのように対策すれば良いのかが不明確な場合があるかもしれません。本記事では、海外展示会出展に伴う主なリスクの種類と、それぞれの具体的な対策方法について解説します。
海外展示会出展に伴う主なリスクの種類
海外展示会への出展は、準備段階から会期中、そして会期後にかけて多様なリスクが考えられます。以下に主な種類を挙げます。
1. 契約に関するリスク
出展契約、ブース設営契約、輸送契約、現地でのサービス利用契約(通訳、電気工事など)といった様々な契約を締結します。これらの契約内容の不備や相手方の契約不履行は、展示会そのものの成否に関わる重大なリスクとなります。
- 潜在的な原因: 契約書の確認不足、言語の壁、現地法規や商慣習の理解不足、契約相手方の信用力不足。
- 発生した場合の影響: ブースが設営できない、展示品が届かない、追加費用の発生、法的紛争。
2. 輸送・物流に関するリスク
展示品や販促物、備品などを海外の展示会場へ輸送するプロセスには、様々なリスクが伴います。
- 潜在的な原因: 梱包不備、輸送中の事故(破損、紛失)、通関トラブル、書類不備、遅延、現地での荷役不備。
- 発生した場合の影響: 展示品の損傷や紛失による機会損失、代替品手配による追加費用、出展そのものが困難になる。
3. 知的財産に関するリスク
展示する製品や技術、デザインなどが、現地で模倣されたり、他者の知的財産権を侵害したりするリスクがあります。
- 潜在的な原因: 事前の調査不足(模倣品や他社権利の存在)、自社の知的財産権保護措置の不足(現地での特許・商標登録など)、展示品の機密情報漏洩。
- 発生した場合の影響: 損害賠償請求、差止請求、展示の中止、ブランドイメージの低下。
4. コミュニケーション・文化に関するリスク
現地スタッフ、来場者、業者などとのコミュニケーションにおける誤解や、文化・商慣習の違いによるトラブルのリスクです。
- 潜在的な原因: 言語の壁、非言語コミュニケーションの違い、商慣習の違い、敬意の表現方法の違い。
- 発生した場合の影響: 商談の失敗、誤った情報伝達、業者との連携不備、来場者からの不信感。
5. 予期せぬ追加コストのリスク
当初予算には含まれていなかった費用が発生するリスクです。
- 潜在的な原因: 契約内容の解釈違い、現地での予期せぬサービス利用(電気工事、インターネット接続など)、輸送・通関費用の上昇、為替変動、緊急対応費用。
- 発生した場合の影響: 予算超過、資金繰りの悪化。
6. 従業員の派遣に関するリスク
海外へ派遣する従業員の安全や健康、また現地での行動に関するリスクです。
- 潜在的な原因: 現地の治安状況、感染症の流行、体調不良、不慣れな環境での事故、現地法規や社内規定違反。
- 発生した場合の影響: 従業員の負傷・病気、緊急帰国、業務遂行の困難、企業の責任問題。
7. 信用に関するリスク
展示会での対応や製品・サービスに関する情報が、来場者や業界関係者からの評価に影響を与えるリスクです。
- 潜在的な原因: 製品情報の不正確さ、担当者の対応不備、約束の不履行(資料送付遅延など)、クレームへの不適切な対応。
- 発生した場合の影響: 商談機会の損失、企業イメージの低下、将来のビジネスへの悪影響。
リスク対策の考え方と具体的な対策
これらのリスクに対して、事前に体系的な対策を講じることが重要です。
1. 事前のリスク特定と評価
出展する展示会、国・地域、展示内容などを具体的に想定し、どのようなリスクが考えられるか洗い出します。そして、それぞれのリスクが発生する可能性の高さと、発生した場合の影響の大きさを評価します。このプロセスには、過去の経験、業界情報、現地の専門家からの意見などが役立ちます。簡易的なチェックリストを作成し、網羅的にリスクを洗い出すことも有効です。
2. 各種契約の厳格な確認
ブース契約、輸送契約、現地サービス契約などは、契約内容を十分に理解し、不明点があれば必ず事前に確認します。特に、キャンセルポリシー、費用内訳、責任範囲、紛争解決条項などは注意が必要です。可能であれば、現地の法律や商慣習に詳しい専門家(弁護士など)の助言を得ることも検討します。
3. 輸送計画と保険の手配
信頼できる国際輸送業者を選定し、展示品の性質に合わせた適切な梱包方法を確認します。また、輸送中のリスクに備え、貨物保険に加入することは必須です。保険の種類や補償範囲を十分に確認し、展示品の価額に見合う保険金額を設定します。通関手続きに必要な書類を事前に確認し、不備がないように準備します。
4. 知的財産権の保護措置
出展予定の製品や技術について、模倣品対策として現地の特許・商標登録状況を確認します。また、自社の重要な知的財産権については、主要な市場での出願や登録を検討します。展示ブースでの情報管理を徹底し、機密情報の安易な開示は避けます。
5. コミュニケーションと文化理解の準備
主要な言語に対応できる通訳者の手配や、自社スタッフへの語学研修を実施します。また、出展先の国・地域の基本的な商慣習や文化について事前に学習し、失礼にあたる言動がないように注意します。名刺交換の仕方や時間厳守の考え方など、基本的なビジネスマナーも確認しておくと良いでしょう。
6. 予期せぬコストへの備え
契約内容の確認に加え、過去の出展実績や現地の情報から、想定外の追加費用が発生しやすい項目(例:会場での追加サービス、設営の変更、現地での急な輸送依頼など)を把握し、予算に一定の予備費を計上します。為替変動リスクに対しては、為替予約なども検討できます。
7. 従業員の安全管理と教育
海外派遣先の治安情報や感染症情報を収集し、従業員に共有します。海外旅行保険への加入はもちろん、緊急連絡先、医療機関の情報、現地の緊急時対応マニュアルなどを整備します。また、現地での行動ルール(夜間の一人歩きを避けるなど)や、企業秘密の取り扱いに関する教育も実施します。
8. リスク顕在化時の対応準備
万が一のリスクが顕在化した場合に備え、緊急連絡体制や対応手順を定めておきます。例えば、展示品の破損・紛失時の保険請求手続き、従業員の体調不良時の医療機関手配、来場者からのクレーム発生時の対応フローなどです。
実務でのチェックポイント
海外展示会出展におけるリスク管理の実務では、以下のような項目を確認することが重要です。
- 契約関係: 出展契約書、設営契約書、輸送契約書の内容(費用、期間、責任範囲、解除条項)を隅々まで確認したか。現地語と日本語の契約書がある場合は、その整合性を確認したか。
- 輸送・物流: 展示品の梱包は適切か。輸送スケジュールは無理がないか。必要な通関書類は全て揃っているか。貨物保険は適正な金額で加入しているか。
- 知的財産: 展示品の模倣リスクや第三者の権利侵害リスクを調査したか。必要な知的財産権保護措置(出願、登録)を講じたか。
- 従業員派遣: 派遣従業員の健康状態を確認し、必要な予防接種等を受けたか。海外旅行保険に加入したか。現地の安全情報や緊急連絡先を共有したか。
- 費用: 契約書に記載された費用以外に、想定される追加費用(搬入出費用、電気工事、インターネット、通訳、現地交通費、食費、雑費など)を見積もり、予算に含めたか。
これらのチェック項目を基に、自社に合わせた簡易的なチェックリストを作成し、準備の各段階で確認していくことをお勧めします。
まとめ
海外展示会への出展は、新たなビジネスチャンスを創出するための重要な機会です。しかしながら、そこに潜む多様なリスクを十分に認識し、適切な対策を事前に講じなければ、思わぬ損失や機会損失を招く可能性があります。
本記事でご紹介したリスクの種類や対策は、あくまで一般的なものです。実際の出展においては、展示会、国・地域、出展内容によって、重点的に管理すべきリスクは異なります。展示会の企画段階からリスク管理の視点を取り入れ、体系的な準備を進めることが、海外展示会出展を成功に導く鍵となります。漠然とした不安を解消し、自信を持って海外ビジネスに臨むためにも、本記事がリスク管理の一助となれば幸いです。